鎌倉で、サイクリストに一番オススメのカフェは樹ガーデン(通称:天空のカフェ)だと思います。オススメな理由は
- アドベンチャー感
カフェに行くのに、きつい傾斜の階段を150段登る必要があります。サイクリストのアドベンチャーマインドがくすぐられます。 - 全席テラス席
アウトドアカフェですので汗とホコリまみれのサイクリストでもそんなに気兼ねしなくて済みます。 - 駅から遠い
鎌倉駅から少し遠く不便なのですが、サイクリストならロングライドのついでに寄れちゃうのでお得感があります。 - 眺望が最高
小山のいただきにあるので良い眺め!パノラマビュー大好きサイクリストも大満足です。
もちろんサイクリストじゃない人にもオススメなのですが、サイクリストには特にオススメ! 本当に最高なカフェだったのですが、なんと、2023年6月に閉店してしまいました😱
閉店の理由は、飲食営業が都市計画法に抵触し、市からの是正勧告を受けたからとのこと。市街化調整区域なのに飲食店を営業してしまったのが理由とのことです。
だったら仕方なくね?
法は法じゃん
って意見が大半かもですが、なんか腑に落ちません。そこのところについてです。
鎌倉市の線引き
市街化区域と市街化調整区域を分けるのを「線引き」といいます。鎌倉市ではどのような線引きがなされているのでしょうか。都市計画情報は鎌倉市役所のHPからネットで閲覧できます。
上の画像をみるとわかるのですが、線引きは、虫食い状にグネグネしています。この線のアチラとコチラで運命が分かれるわけですね(ヒェ~)。天空カフェは、たしかに市街化調整区域のエリアですが、あまりにもグネグネの線ですので、うーん…。
ちなみに線引きは、都市計画審議会が審議して県知事が決定します。どのような審議を経るのかというと、地形・道・既存集落といった、都市計画法制定時の自然発生的な土地利用状況をベースにして、「今度はここを新しく住宅街にしよう」的な新たな市街化構想に基づいた更新を重ねていくんだと思われます。デベロッパーが開発した住宅街(天空カフェのすぐ左(西)にもありますね)なんかは、そういう市街化構想の産物なんでしょうね。
都市計画法が施行されたたのは1969年(昭和44年)です。それから線引きは何度も更新されているはずですが、この虫食い状のグネグネ線を見てると、誰がどこをどういう理由で定めた線なのか、説明がつくのかなって気がします。説明がつかなくても、一旦決定した線引きには従う必要がある、と言われれば確かにそうなんでしょうけど…。
天空カフェの歴史
天空カフェは、もともとは不動産業を営むオーナーの別荘だったものが、飲食店(の厨房)として転用されたものです。
- 1969年
都市計画法施行 - 1970年
当該敷地が市街化調整区域に指定される
この時点でオーナーは土地を所有していた - 1974年
敷地に別荘として建物が建てられる(専用住宅として都市計画法の許可を取得)
この別荘が、たまたまハイキングコースに近く、けがをしたり道に迷ったハイカーが訪れるようになったことから、休憩場所として利用されるようになる - 1980年
休憩場所を兼ねた飲食店として営業開始
以後40年間、都市計画法抵触状態となるが誰も気づかない(or 気にしない) - 2019年
市民から「専用住宅の一部を利用して飲食営業を行うのは都市計画法違反では」と通報される
市は通報を受け、天空カフェに是正勧告 - 2022年12月27日
閉店 - 2023年5月
軒下を利用した物販として営業を再開 - 2023年6月
ふたたび閉店
天空カフェが稀有なのは、ロケーションもさることながら、そのストーリーです。別荘がたまたまハイキングコースに近かったことから、ハイカーがだんだん立ち寄るようになり、ハイカーに休憩場所や飲みものを提供するうちに、やがてカフェとしてオープンするに至ったという、交流のストーリーです。
そこに登場するのは、
・美しい自然の中を散策したいハイカー
・疲れたハイカーをねぎらいたい別荘のオーナー
です。そういう人間的で温かみのある人達の交流が、天空カフェのプロローグとなっています。
法とは?
都市計画法を守ることは勿論重要なことです。しかし都市計画法で定められた「線引き」は、乱開発を防止するためのものなので、天空カフェのようなケースにそれをあてはめ、営業をやめさせてしまうことは、何か的外れなものを感じます。
また、法の外側には道徳の世界があり、道徳の世界で称賛される事象が、法によって消滅させられるのも、何か尋常でないように思われます。
法は法ですが、それをどのように運用するのかは、再考の余地があるように思われます。幸いなことに、都市計画法第42条には「知事が認めて許可したときはこの限りではない」という但し書きがあります。神奈川県知事さんが良い仕事してくれるかどうかは不明ですが、こういう但し書きがあることからして、この条文自体、原理主義的な運用は想定されておらず、むしろ、現実に即した柔軟な運用が求められているように思われます。
また、法だって人間が作ったものですから、その出来栄えや妥当性は、ピンキリなんじゃないでしょうか。都市計画法で定めた恣意的なグネグネ線の妥当性と、天空カフェの妥当性(そのストーリー)を比べたら、見えてくるものがあるかもしれませんね。
ちなみに、天空カフェは閉店告知後の1ヶ月で、7千人超が来店したとの事。この数字から察せられるのは、天空カフェは単なるオシャレカフェではなく、ある意味、鎌倉のシンボルだったのでは、ということです。
というわけで、天空カフェがこのまま消滅して良いわけはなく、いずれ復活するんじゃないかな、というのが私の予想です。早く復活してくれるといいですね。
(注)
この記事は、天空カフェ閉店にまつわるニュース等の情報に基づいて書いたものです。天空カフェに取材して書いたものではありません。間違い(特に年表のとこ)があったらスミマセン。
(おしまい)
****************
なんと、再オープンしました!
やったー!😆
追記:ブラジリアのこと
余談ですが、ふと、ブラジリアのことが思い出されましたので。
ブラジリアはブラジルの首都です。ブラジル人建築家ルシオ・コスタより、1950年代~1960年代にかけて構想・建設されました。
広大なオープンスペース、自動車交通の円滑化、都市機能の極度の分離、幾何学状に配置された箱型の高層建築物などが計画された、典型的なモダニズム都市です。
しかしブラジリアを航空写真でみると、そこには予期しない人間生活の侵食が見られます。広大なオープンスペースを住人が横断して出来た、いくつもの”ケモノ道”です。
どんなに綿密な計画であっても、計画は計画にすぎず、人間の生活はそれに合致しないことも当然起こり得るのですよね。
都市計画とは、あらかじめ設定された不動のゴールなのでしょうか。それとも、偶然や必要に応じて姿を変えていくべきなんでしょうか。
鎌倉市が天空カフェを閉鎖させた件で、ブラジリアの都市計画がふと思い出されたので追記してみました。
(おしまい)