自転車屋さんの話

サイクリングにハマって1~2年した頃の話です。サイクリング中にチェーンが落ちて自分で直せなくなったことがありました。チェーンがチェーンリングの内側に落ちてしまい、フレームとの隙間にガッツリ食い込んで、自分ではどうしようもできなくなりました。

当時のっていた自転車。フロントシングルでした。
http://www.sakamoto-techno.co.jp/cn3/cn21/SPORTS.html


スマホで最寄りの自転車屋さんを探し、そこまで自転車を押して行くことにしました。着いてみるとそのお店は、商店街の片隅の、高齢のおじいさんが店主の、昔ながらの自転車屋さんでした。お店の広さに対して展示してある自転車が少なく、全体的にガラーンとした雰囲気でした。

「あの、修理をお願いします」と言うと、おじいさんが自転車を見てくれました。そしておもむろに、自転車のライトをいじり始めました。チェーンが落ちたのになぜライトをいじるのか、不安になり「あの…」と言いかけると、「これはずしてくれる?」とのこと。私がライトをはずすと、おじいさんは自転車をひっくり返し、チェーンの修理が始まりました

そこからは、スムーズに修理が行われました。修理中、私はおじいさんと会話しようと「こないだは皇居のほうまで走ったんですよ」と話しかけましたが、おじいさんは無反応でした。作業に集中しているからなのか、それとも無駄話が嫌いな性格なのか、わかりませんでしたが、それからは私も黙って、おじいさんの仕事を眺めていました。

おじいさんは、確か、チェーンのコマを一つか二つ詰めてくれたと思います。チェーンがもとに戻ると「さぁ、これでもう絶対チェーンは落ちないよ」とおじいさんが言いました。私は(絶対なんてことがありえるのかな)と思いましたが、それくらい自信をもっているというのは凄いことだなと思いました。そして修理が終わると、おじいさんは急に話し始めました。

「俺も昔は、自転車に乗って、いろいろなところに行ったんだよ。俺が乗ってたのはミヤタのクロモリでさ、それをそこ(と店内の壁の上のほうを指し)に飾っておいたら、とあるお客さんが売ってくれ、売ってくれと言うものだから、最初は断ってたんだけど、とうとう売っちまったんだよ」

私は修理代を支払い、おじいさんにお礼を言って、店を後にしました。店を出て、自転車を漕ぎながら、自分の愛車を壁面に飾ることの意味を考えました。そして「もう絶対チェーンは落ちない」と言ったけど、もしチェーンが落ちたら、私は、あのおじいさんを思い出すのだな、懐かしく思い出すのだろうな、なんてことを思ったりしました。

その後、この自転車は、チェーンが落ちることはありませんでした。

****************

それからまたしばらくたって、私は新しい自転車が欲しくなり、このときの自転車を友人に譲ることにしました。友人は自転車を譲り受けると、ショップに点検にだし、「チェーンが伸びてますね。交換しましょう」と店員に言われチェーンを交換したとのこと。その話を後日聞いた私は、もう手放した自転車のことなのに、惜しい気持ちになりました。

(おしまい)

タイトルとURLをコピーしました